3:MS-Mixと特色
第1回目の「MSマイクセッティング」で説明した「Middle信号」「Side信号」成分を独立して調整し、再度LR状態に戻してMix/Masteringを施す方法です。
通常では2mix音源に対してMS分離を行います。
また、応用的には後述するStemMixにも用いられます。
「Middle信号」「Side信号」成分の特色を理解した上で、各々の調整を行うのは非常に高度な技術を要しますが、適切な処置を施すと劇的な効果が得られます。
特に音圧部分に関して言うとLR-Mixでは到達できない超高音圧を実現させることが出来ます。
Middle信号とSide信号
通常のLR音源から「Direction Mixer」を通じてMSに分離できます。
この時、L=Middle信号、R=Side信号となります。
通常のLR-Mix/Mastering処理した音源と、MS分離後の音源を見比べてみると、Side信号にはまだマージンが残されていることがわかります。
通常のLR信号
MS信号
LR信号とMS信号の比較
LogicProのミキサーでMS−Mix処理を行う
外部サードパーティ社製マスタリングプラグインなどを使わずに、LogicProミキサー内でのBus応用操作によりMS-Mixを実現させることが出来ます。
ワークフローは以下のとおりです。
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元のオーディオトラックから「Mid信号用」と「Side信号用」のAuxチャンネルストリップへ、各々Sendにて0dBで送る。
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元のオーディオトラックは出力をOFFにする。
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「Mid信号用」→Direction MixerをMSモード、Panを真左、OutをBusに設定(Bus−aとする)
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「Side信号用」→Direction MixerをMSモード、Panを真右、OutをBus-aに設定
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Bus-a→Gainを挿入:+6dBに設定、Direction MixerをMSモード、これで通常のLR信号に戻る
1. 元のオーディオトラックから「Mid信号用」と「Side信号用」のAuxチャンネルストリップへ、各々Sendにて0dBで送る。
2〜4. 元のオーディオトラックは出力をOFFにする。
「Mid信号用」→Direction MixerをMSモード、Panを真左、OutをBusに設定(Bus−aとする)
「Side信号用」→Direction MixerをMSモード、Panを真右、OutをBus-aに設定
5. Bus-a→Gainを挿入:+6dBに設定、Direction MixerをMSモード、これで通常のLR信号に戻る
「Gain」を挿入して6dBに設定する理由
MiddleチャンネルとSideチャンネルが左右目いっぱいに振られているために、聴感補正で-3dB減衰されています。
それをもとに戻すためにGainにて+6.0dBに増幅する必要があります。
MS-Mixの特色
MS-Mixは、LR信号ではコントロールが難しいSide信号の直接処理ができます。
よってステレオイメージを最大限活かしたMixが可能になります。
また、Side信号のマージンを有効活用することでLR-Mixでは得られない音圧を稼ぐことが出来ます。
これらの特色を活かすためにはMiddle信号とSide信号、各々の特徴をつかむことが重要です。
Middle信号の特徴
リズム隊の中心音域成分(低域〜中低域)と、ソロ・ボーカルパート等メインパートが集まる。
空間系エフェクト、特に残響成分は少ない。
ビートのボディ感を活かしたコンプが有効。
Side成分の特徴
コード隊からString/Brass系、FX系などパートが左右に散らされている成分が多い。
特に金物やNoise成分、空間系、Modulation系などの中域〜高域成分が主体。
ビートのアタック感を活かしたコンプが有効。
時々必要となる超低域成分をSideに散らすことでMiddle成分の圧迫を軽減させることが出来る。
Mix方法のジャンル別対応の一般論として
アンプラグド・アコースティック系〜通常のポップスなど、ナチュラルイメージのジャンルに関してはLR-Mixを用いたほうが良い結果が得られることが多いです。
MS-Mixが特にその効果を発揮するのはハードロック・ヘヴィメタル系、エレクトロ系全般など、アーティフィシャルなサウンドイメージのときです。