2:パートサウンドの立体化
パート(トラック)サウンドの立体化
通常のL↔R分布にてトラックミックスを行った時に、EQやダイナミクス処理をいくら施しても音が埋もれてしまう悩みに出くわすことがあります。
この時にそのパートを「立体化処理」を施すことにより、むやみに音量を上げること無くその存在を顕在化させることが可能になります。
立体化への処理
Mix/Mastering基礎にて学んだ空間系エフェクトの濃淡でもある程度の立体化を施せますが、より応用的な手段をここでは解説します。
立体化への手段として
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ステレオイメージを変化させる→バイノーラルパンニング
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サウンドに動きを付ける
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Side信号を編集する
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位相を変化させる
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サウンドを完全に左右へ散らす
などのアプローチがあります。
これらの手段へ結びつく項目を説明していきます。
バイノーラル録音
人間の耳は左右2つしか無いにもかかわらず「左右」だけでなく「上下、前後」といった3次元で立体的に音を聞き分ける能力があります。
これは脳の音域感知、頭蓋、骨伝導、耳の形状等さまざまな要因が重なって達成されているものです。
録音技術の一つにこれをシミュレートした「バイノーラル録音」という、ダミーヘッドの耳孔にマイクを仕込んだ録音方法があります。
これをDAWでソフト・シミュレーションしたものが「バイノーラルパンニング」で、音像を頭の周りに飛び回らせる効果があります。
これを施したパートは通常MIXのトラックとは「違う立体感」になり存在感が増します。
これらのバイノーラルパンニングを施したトラックには「バイノーラルポストプロセッシング」という補正ソフトを通すのが一般的です。
バイノーラル録音のために使われるダミーヘッド
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バイノーラルパンニング設定
LogicProにてバイノーラル録音をエミュレートできます。
トラックのアウトプットスロットメニューの「Binaural Pan」を選択するとPanノブがバイノーラル用に変化します。
バイノーラルトラック設定
バイノーラルパンを用いるトラックで、詳細なバイノーラル設定を行うにはPanノブをダブルクリックします。
また、全てのバイノーラルトラックは後ほど説明する「Binaural Post-Processing」エフェクトを通すことでより高い効果が得られるので、直接のステレオアウトではなく通常はBusに送ります。
音を左右から聞かせる Sample Delay
アンサンブルで最も音が固まって聞こえるのは中央のモノラル部分です。
中央を避けて左右から音を鳴らすのに使います。
左右どちらかの音を僅かに遅らせる(Delay)ことで左右からバラバラに音が聞こえます。
ちなみにDelayさせないと中央から鳴るだけになります。
この場合「ハース効果」によりDelayさせた側が僅かに小さく聞こえます。
この場合、エンベロープ変化が顕著なサウンド(例えばディケイの短いパーカッシブ系や、ベル系の音など)のほうが効果が高くなります。
オルガンのようなゲート型のエンベロープサウンドではアタック時のみ左右が広がったように聞こえるだけで、時間経過で音が中央に集まってきてしまう場合があります。
この設定の場合、やや左の音量が大きく聞こえる。
耳は早く到達する音をより大きく知覚する傾向がある。
これを「ハース効果」という。
Side信号をEQ処理する
Channel EQにて「Side信号」のみにEQを施すことが出来ます。
これをオートメーションなどで動きをつけることにより立体化させることが出来ます。
Phaserによる位相変化で立体化させる
最も簡単にアンサンブルの中から音を立体化させるエフェクトが「Phaser」です。
Phaserは「位相」をずらした音を混ぜLFOにより連続的に変化する音を作り出します。
すこし応用的な使い方ではLFOを動かさずに「やや浮いた」音を作ることもあります。
*コムフィルタ
極端時間Delayをミックスすることで発生する櫛形の干渉波によるフィルタ効果のこと