1:サイドチェインコンプ・ステレオイメージ
イントロダクション
Mix/Mastering基礎では、DAW上の標準的な作業にて、一定レベル以上のサウンドを得るための技術・技法を解説してきました。
これまでにても十分なサウンドが得られるはずですが、中級編ではさらに一段階ステップアップした「プロサウンド」を得るべく、発展的な技法・技術を記していきます。
たとえば、トラック数が増えてくるとどうしても埋もれてしまったり、どんなに音量を上げても前に出ない音が現れてきてしまいます。
こういう場合はEQやコンプなどでパートのすみ分け、分離等を行う定番技法だけでは解決できません。
「埋もれたトラックを復活させる奥義」が存在します。
これらの技術を効果的に駆使することにより、むやみにトラックボリュームを上げること無く存在感を増やすことが出来ます。
結果、バランスの良いMixを生み出し、昨今求められる「音圧」へも十分に対応できることになります。
サイドチェインコンプ
音圧への重要要素にリズム隊の効果的なサウンドメイキング/Mix処理があります。
通常ミックスでは低域のエネルギーを大きく占める「Kick」と「Bass」ですが、サイドチェインコンプを用いることにより聴感上の違和感を発生させること無く、合理的なボリュームバランスを得ることが出来ます。
通常ではKickとBassが重なった部分が大きく音量が上がる
重なったアタック部分においては、聴感上のサウンドキャラクターではKickが優位に聞こえています。
なので、Bassのアタック部分をKickのタイミングに合わせてコンプレッサーで押さえ込みます。
この時、Kickの音をコンプの作動タイミングとするべく、コンプレッサーのサイドチェインに指定します。
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目的1
リズム隊の音圧調節→Kickと重なったBassの頭部分を潰してリズム隊の音量を平均化して音圧を稼ぐ -
目的2
EDM系サウンドの定番技法→パッドやシンセストリングの音にKickのトリガーでサイドチェインコンプをかける
ステレオイメージ
ステレオで音が立体的に聞こえるのは各パートの音量がLchとRchにて差分があるためです。
一方モノラルとは単チャンネルのみで音は一つに重なって聞こえます。
ステレオ音源LchとRchを重ねて「L + R」とするとモノラル(ミドル)音源となります。
また、ステレオ音源のLchとRchにて差分を取ると「L – R」モノラル部分が無くなったサイド音源が取り出せます。
ステレオとはモノラル(ミドル)音源とサイド音源とをミックスしたものとも言えます。(MS音源)
これらを【XYマイクセッティング】という録音技法で説明します。
【XYマイクセッティング】
センターラインに向けて各々45度に開いた指向性マイクをセットする。
指向性マイクは集音エリアが逆ハート型となる。
Middle信号とSide信号を効率よく録音するセッティングが【MSマイクセッティング】です。
音源に対し正対する単一指向性のMiddleマイクと、直角に配置した双指向性のSideマイクを用います。
【MSマイクセッティング】
【MS】と【LR】は随時変換可能です。
ステレオイメージ関連のエフェクターはこのモノラル(ミドル)部分とサイド部分を強制的に調整させるもので音の立体感、広がりをコントロールします。
音が重なりあって団子状態になっている時、特にサビやソロの頭でBOOM系SE音などのインパクトのある音が周りの音圧に負けてしまう時などサイド部分を強調、もしくはモノラル部分を少なくすることで音を左右に逃がし、結果存在感を増すことができます。
コリレーションメーター
ステレオイメージの確認に用いる
【ステレオイメージを視覚化する】
ステレオスプレッド
音源の周波数帯域を強制的に左右に振り分けてステレオ効果を高めます。
この時音源は単純に横に広がるというより前後の立体感を持った音像へと変化します。
やや似ているサウンドトラックが共存している時など片方にかけると効果的です。
ディレクションミキサー(ステレオイメージャー)
音像の左右の広がりを調整します。
この時、Spreadを完全に広げると中央(モノラル)が抜けた音像になり、音が前後で鳴っているように聞こえます。