11:Blues system①
19世紀末アメリカのディープサウス発祥のBluesはポピュラー音楽において極めて重要な役割を担っています。
通常の音楽システムでは作り出すことができない独特な「渋さ」は時に「Blues feeling」と表現されポピュラー音楽にも積極的に用いられます。
特にMajor scale systemを基軸におくヨーロッパ西洋音楽とは基本的システムを異にしており、理解と習得のためには、両者を根本的に分けて考える必要があります。
これからBluesを構成する様々な要素、Blues scaleやBlue noteを学ぶ前にその基本概念を説明します。
Blues systemの基本概念
Blues systemは通常の音楽システムとその根本を異にします。
まずは通常の音楽システムを再確認します。
通常の音楽システム
「メロディはコードに支えられる」ことを基本にしつつ、メロディとコードその両方はスケールに関連します。
コードはスケールと対応関係にあり、メロディはスケールをその基本的材料としています。
この関係を保つことが整合性のある作曲につながります。
この関係が崩れたときにはサウンドが破綻する可能性が極めて高くなります。
Blues system
Bluesでは、メロディの面ではほぼブルーススケールを奏でることになり、そしてまた、コードの面ではブルースコードが用いられメロディを支えます。
しかし、このブルースコードとブルーススケールは対応関係になく、一見全くの無関係に見えます。
実際のところは音楽理論③で学ぶ「Approach harmonize」にて密接な関係を持つのですが、表面的には、関係性を見出すことはまずできません。
Blues systemを通常の音楽システムを用いて解明しようとすると、論理的に破綻することになります。
Blues systemを理解するには根本的に頭を切り替える必要があります。
Blues systemのKey概念
Bluesはそれ自体で独特の世界観を持ちますが、基本のKey概念はMajor scale systemに属します。
Blues systemは通常の音楽システムと混在させることができ、あくまでもKeyはMajor scaleの「I」をTonicの基軸とします。
Bluesの要素
これからBlues systemの各要素を説明していきます。
まずはブルースコードとブルーススケールから説明します。
ブルーススケール(Blues scale)
Major scaleの[III]と[VII]がフラットしたスケールです。
一見するとDorianと同じに見えます。
しかしながら対応するコードが異なります。
Dorianの対応コードはm7コードです。
このコードとスケールは1:1対応です。
Blues scaleの場合はブルースコードが対応します。
ブルースコードとはBlues状態(Blues systemが用いられている状態)で用いられる全てのコードを指します。
ブルースコード
ブルースコードはドミナントコードを中心に用いられます。
特に最も基本的なコードは「I7」「IV7」「V7」です。
そしてBlues scaleとブルースコードは1:1対応ではありません。
C7の「E」、G7の「B」はC-Blues scaleには存在しません。
しかしながらサウンドは破綻しておらず、通常の音楽システムでは表現できないBlues独特のサウンド「Blues feeling」を醸し出しています。
ここがBlues独特の構成「Blues system」の特徴です。
ブルースコードは「I7」「IV7」「V7」を基本としますが、ここから応用して全ドミナントコードが用いられます。
さらに発展系ではあらゆるコードクオリティでのブルース進行が可能です。
この時、コードのテンション付加は割と自由に行われます。
Blues scaleとの整合性を考慮してテンション選択を行うことは、論理的なサウンドを構築するために極めて有効になります。
ここもサウンドコントロールの技法と言えるでしょう。
ブルースコードのまとめ
- 基本形・・・「I7」「IV7」「V7」
- 応用・・・・全ドミナントコード(テンション任意)
- 発展・・・・全コードクオリティ任意選択可
Blue note
Blues feelingの最重要要素が「Blue note」です。
Major scaleとの差異である「III♭」と「VII♭」、さらに発展的Blue noteとして「V♭」を加えることもあります。
Blue noteのキャラクター
III♭・・・最も強いBlue note
VII♭・・・弱いBlue note
V♭・・・発展的Blue note(最も「黒い」と表現される)
*発展的Blue noteの「V♭」は単独の使用ではBlues feelingを醸し出しません。
「III♭」と「VII♭」が恒常的に使われているBlues状態の中にあって初めてBlue noteとしてのキャラクターが現れます。
もし、通常の音楽システムにて単独使用すると「♯11」のキャラクターに聞こえます。
Blue note pentatonic scale
Blue noteのキャラクターを全面に押し出すためにBlues scaleから「II」と「VI」を省略したスケールをBlue note pentatonic scaleと言います。
だいたいにおいては発展的Blue noteの「V♭」も加えた形で用いられます。
アドリブなどで最もよく使用されるスケールです。
ここであらためて注意するべき点は、このスケールはメロディのキャラクター付けのために使われる「メロディ専用」スケールということです。
コード対応のスケールではないことを再確認してください。
12-bar blues chord progression
Bluesで最もよく用いられる基本的コード進行です。
一般的に「12小節Blues進行」と呼ばれます。
ルール
1小節目・・・Tonic
5小節目・・・Subdominant
7小節目・・・Tonic
9小節目・・・Dominant
11小節目・・・Tonic
*10小節目のSubdominantと12小節のDominantは定番として用いられることが多いですが、この例に従わなくてもBlues feelingは保たれます
ここで決められているのはコードファンクションです。
図では具体的に基本コードを配置しましたが、ファンクションがあっていればもちろん別のコードを当てても構いません。
ここは非常に応用の効くところで「全コードルートの全コードファンクション」の技法を用いられれば極めて発展的で攻撃的なBluesサウンドを作ることもできます。
まずは、代理コードを用いて変化させた例を見てみましょう。
BluesのEtudeを載せます。
重要なこととして注目すべきは、ブルースコードが刻々と変化し、その構成音はBlues scaleにない音が使われているにも関わらず、メロディは頑なにBlue note pentatonic scaleを弾き続けている点です。
メロディはとても臨時記号が多いですが、じっくり確認してください。
そしてあらためて言いますが、楽曲は「Key of C」です。
【11Ex-etude1】
【11Ex-etude2】