6:オーディオファイルのアナログ化とプラグイン
DAW内部完結サウンドの限界とプロサウンドの差
いかに万能なLogicProといえども、完全内部完結にてBounceしたMasteringサウンドでは、商業スタジオにてレコーディングからMasteringを行ったサウンドには到達できないポイントがあります。
それが「アナログ化サウンド」です。
DAW内部完結のサウンドは「オールデジタル」です。
不解明な部分が多く、細かい解説が不可能ですが、「心地よく、良質なサウンド」を奏でるという点ではアナログサウンドがデジタルサウンドに勝っていると言わざるを得ません。
PC外部に出し、ケーブルを通じる電気信号のサウンドが「アナログ」状態のサウンドです。
このPC外部にてサウンドを操作する場合、外部EQ、コンプレッサー等のアウトボード機器、アナログコンソール卓などにサウンドを通す時、必ずアナログ回路でのプリアンプ等の信号増幅を行います。
信号増幅時には「歪み」の付加が避けられず、必ずサウンドにはなんらかの「変化」が伴います。
このアナログ増幅回路を通るときの信号変化を、現状は「心地よいサウンド」と受け取っているのだと考えられます。
この「良質なアナログ増幅回路の変化」を感じさせる機器が商業スタジオには多く取り揃えられており、この点が唯一ホームユースのDTM環境と異なる点と言って良いでしょう。
アナログ化への要素
プリアンプ=アナログ増幅回路
アナログ機器には必ずと言っていいほどプリアンプが内蔵されています。
ミキサーやEQなど、入力段で最初に通過する増幅回路のことはヘッドアンプと呼ばれるものもあります。
マイクやギターからの微小な信号を適正レベルに増幅させるのがこのプリアンプ部分になります。
プリアンプの品質差がプロ向けの高級品と廉価な入門品の値段の差に直接現れていると言えるでしょう。
ただし、ある一定以上の品質を持つものであれば値段以上のパフォーマンスが期待できる機器も多くあります。
また、増幅回路で使われる素子によってサウンドキャラクターが異なります。
重宝されるヴィンテージ機器の殆どは真空管やトランジスタをディスクリート構成(集積回路を使わない)にて組み上げたものです。
増幅素子
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TUBE:真空管
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SolidState:トランジスタ/FET
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集積回路:オペアンプ
すでに廃盤となってしまっていますが、Mackieの上位ブランド「ONYX」アナログミキサーシリーズに搭載されている「ONYXプリアンプ」のクオリティは商業スタジオレベルに比肩しうるものです。
(ONYXプリアンプの真価はスタンドアローン型のミキサーで発揮されるようです。
USBバスパワー駆動のI/O「BlackJack」のONYXプリアンプは一歩届かないものに感じます)
チャンネルストリップのEQ部もブリティッシュタイプの大変色気のある素晴らしいものです。
→Perkins EQ
写真は「ONYX 1220」です。
オプションでFireWireのオーディオI/Fが追加できます。
この後継の「i」シリーズではFireWireオーディオI/Fが標準装備されるようになりました。
ONYX 1220
ONYXプリアンプ部分
*現行MacではFireWireポートが廃止され、後継としてThunderboltポートが装備されています。
Thunderbolt→FireWire800→FireWire400の変換アダプターにて動作可能になりますが、環境によっては不安定な状態になる報告もあるようです。
アウトボードのエフェクター
一般の書籍などではヴィンテージタイプのEQ、コンプレッサーなどが紹介されますが(これらにも標準的にヘッドアンプ=プリアンプが内蔵されています)エフェクト効果としてはLogicPro標準プラグインにて賄えます。
ここではLogicPro標準プラグインにて賄いきれない効果をもたらすエフェクターを紹介します。
魔法のアウトボード
BBE ソニックマキシマイザーシリーズ
482i
「エンハンサー」と称されるエフェクターです。
低域に粘りのある深みを、高域に輪郭のくっきりとした輝きを加えるまさに魔法のエフェクターです。
Logicの「exciter」が同種ですが、質感が全く異なります。
特に、低域のエンハンス付加は「ずるい」の一言です。
ライントランス 唯一のサウンド清流要素
プリアンプも、アウトボードのエフェクト群もアナログ増幅回路によるサウンドへの「歪の付加=厳密にはサウンドを汚すこと」は避けられません。
それが「良質のサウンド」要因になることは説明しました。
多くの機器の中で「サウンドを汚さずキレイに整える唯一の要素」がライントランスです。
厳密にはトランスも音質変化を伴い、低級品では音の劣化を招くものです。
しかし、オーディオ特化の高級ライントランスでは「サウンドの良い要素」のみを抽出するような素晴らしい効果を持つものがあります。
もしも、機材にお金をかけるのだとしたら私ならばこのライントランスを最優先に考えます。
ライントランスに関する詳細な説明も含め、最終回答とするべきショップがあるのでここで紹介いたします。
カーンヒル
泣く子も黙るOldNeve機器の伝説的なサウンドは、最終段のアウトプットライントランスがその心臓部と言われてきました。
OldNeveにはマリンエア社のトランスが使われており、このカーンヒルトランスはその後継モデルとされています。
ずしりと重心の低い低音感と、バランスの良い中域、存在感がありながらもジェントルな高域が特徴です。
ルンダール
現行Neve設計のFocusrite社はじめハイエンド機器装着トランスの代名詞的な存在です。
全体的にソリッド感のあるパート分離が際立った明瞭サウンド。
特に高域の耳が痛くない伸びは素晴らしいの一言です。
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中2段がライントランス
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上がルンダールーステレオ
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下がカーンヒルステレオ
ライントランスは「ラインレベル」の入力で効果を発揮します。
なのでプリアンプの後に接続するのが定番手法です。
PCからの2mix時、ステムトラック作成時、Mastering時など、何度でも通すことによる効果を期待できます。
アナログ化ライクなLogicProのプラグイン
LogicPro内部のプラグインには「アナログ化」を綿密にシュミレートしている優秀なプラグインが数多く揃っています。
実際にアナログ化を施したトラックは勿論、通常の音創りにても本物のアナログ化サウンドへかなりなクオリティで追い込むことができます。
VintageEQ コレクション
OldNeveサウンドの代名詞「Neve1073」APIのグラフィックイコライザー「API560」真空管タイプのPultec EQP-1AのモデリングEQがLogicPro10.4より追加されました。
正直言って「驚愕」の一言です。
すでにUAD、WAVES等のプラグインメーカーが同等品を出してますが、決して安くないそれらのサードパーティ機種を凌駕する出来栄えです。
これらが無料で追加されていくことにはただApple社への感謝しかありません。
3種それぞれに特徴がありますが、全てに言えることは「サウンドの色気」が付加されることです。
通常のChannelEQの補正では付加されないサウンドキャラクターを得ることが出来ます。
一つ、注意ポイントをあげるならば「OUTPUT」のPhaseは必ず「Natural」を選ぶこと。
これはEQカーブ変化による「位相変化」こそがサウンドキャラクターの重要要素だからです。
オプションで「Linear」も選べますが、最終Mastering等の特殊用法時出ない限りは使うことはありません。
Console EQ
低域の「コシ」中低域「ハリ」が出る。
そして中高域のブライト感は圧巻
Graphic EQ
低域の伸びは奇跡的。
オリジナルから発展してFreqポイントをスライド変化させられる
Tube EQ
低域、高域ともに「色気」「艶」のキャラクターが付加される
Boost[増幅] Atten[減衰]を同時に回すと独特のEQカーブとなる
LogicPro10.3以前でのアナログシミュレーションエフェクト
真空管回路(Tube)
偶数倍音が強調される傾向にあり非常に温かみのあるサウンドとなります。
過大入力させたものがエフェクターの「オーバードライブ」になります。
アンティークの域に入る一部のヴィンテージ機器にしか見ることはできません。
また、純粋なパワーアンプとして一部のオーディオマニア向けの現行製品があります。
LogicProでのシミュレーション
Guitar amp proを使う・・・*レガシーエフェクターなので ⌥+click で選択
設定
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Ampタイプ・・・「Clean Tube amp
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Speaker・・・・「DI Box」
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Mic・・・関係なし
「Gain」を上げることで心地よい歪(サチュレーション)が得られます。
「EQ」にて基本の音作り→「Presence」でエキサイター効果
「丸みのある音」への変化が特徴です。
トランジスタ回路(Solid State)
奇数倍音が強調される傾向があり、真空管回路に比べ鋭いサウンドが特徴です。
集積回路(ICアンプ)としたものもこれに含まれますが、ICアンプと分けて個々の素子による回路のことを「ディスクリート回路」と呼んで高級扱いされる傾向にあります。
ヴィンテージ機器の多くはトランジスタ回路となります。
LogicProでのシミュレーション
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Amp Designerを使う
設定
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Ampタイプ・・・「Transparent Preamp」
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Cabinet・・・・「Direct」
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Mic・・・関係なし
通常の「Channel EQ」による変化に比べて高域と低域の押し出しが強くかかります。
「Presennce」との組み合わせで、HiFiサウンド、通称ドンシャリサウンドを簡単に生成できます。 -
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Space Designerを使う
Space Designerはリバーブのみならず、音の入出力変化を再現するエフェクトとしてアンプシミュレーターを備えています。
これらの実機の特性をIRにて埋め込まれています。
プリセットの「Warped Effects」カテゴリーは面白いサウンドの宝庫です