3:1980年代中期・デジタルサウンド
アナログシンセサイザーの限界点 ~デジタルシンセサイザーの出現~
アナログシンセサイザーの電子回路にて作り出されるオシレーターの波形は単純型で、また、時系列での音色変化もそれほど複雑な制御をすることはできません。
シンセサイザーは「どんな音も出る魔法の楽器」とのイメージも強いですが、ことアナログシンセサイザーに関しては、自然界の音や倍音変化の多いアコースティック楽器のシミュレーションなどはかなり難しいのです。
特にピアノ、スネアドラム、シンバル、ベル音/鐘などの金属系音色、人の声などはアナログシンセサイザーの不得意とする音色です。
しかしながらデジタル技術の発達により回路制御や音源方式などが漸次進化し「FM音源」「PCM/サンプリング音源」などのデジタルシンセサイザーが出現。
アナログシンセサイザーでは苦手としていた上記の音色群を網羅できるようになってきました。
特に「PCM/サンプリング音源」についてはメモリのコストダウンにより大サンプル容量が実現し、2000年に入る頃にはマルチレイヤーサンプリングが可能となり、きわめて自然な響きのアコースティック楽器の再現ができるまでに辿り着きました。
2000年以降ではアナログシンセサイザーの電子回路構造や比較的単純な楽器の物理特性を純粋数学で記述した音源方式「物理モデル音源(モデリング音源)」も一般化しました。
各音源合成方式において何が得意で何が苦手なのかを把握することが望むサウンドを手に入れる近道となります。
サンプラー
自然界の音、もしくはアコースティック楽器そのものの音を録音し、それを音色の素材とした楽器を「サンプラー」と呼びます。
簡単にいえばサンプラーは「オーディオファイルのプレイバッカー」です。
その原型はデジタル技術が発展する前の1960年代の磁気テープ音源サンプル再生楽器「メロトロン」に見ることができます。
メロトロンは鍵盤一つ一つに磁気テープ再生装置を搭載したかなり力づくな楽器でした。
そのノスタルジックな音色は今でもコアなファンを魅了し続けています。
デジタルサンプリング方式によるサンプラーが登場したのは1978年フェアライトCMIが最初と言われています。
またほぼ同時期にE-muから「Emulator」が発売されサンプリングが徐々に認知されていきますが、一般のミュージシャン・ユーザーに広まるのはおよそ1990年代に入ってからになります。
デジタルサウンドの襲来 1980年代中期
こうして、デジタル音源によるサウンドがチャートを席捲していきます。
それはRockなどの分野でも積極的に用いられるようになってきました。
Frankie Goes To Hollywood – Relax (1983)
イントロSyncベースとチョッパーベースのユニゾン
リフの重低音シンベ
この時期の名プロデューサー、トレヴァー・ホーンによる完全な傀儡バンド。
高濃度フェアライトサウンドは彼の独壇場だった。
その柱は「the Art of noise」その支流は「YES」に聴くことができる。
リズムはLM-1のEuro使いなパターンが特徴的。
YES – Owner Of A Lonely HEART (1983)
イントロ、間奏のオケヒとロービットドラム
伝説的プログレバンドYESがトレヴァー・ホーンのプロデュースにより、当時華々しく復活する。
その目玉はなんといっても「オケヒ(オーケストラヒット)」。
当時「何だこの音は!?」と業界が騒然となりフェアライトの名を一躍世界的なものにし、しばらくは「サンプリング=トレヴァー・ホーン」の専売特許状態となった。
Dead Or Alive – You Spin Me Round(1984)
リズムパターン(LM-1) クラップ カウベル
サビ コードカッティング(16パターン刻み)
UKきってのゲイバンド。
ハイエナジーの元祖とされる。
ヴィジュアルが先行されがちだが実はなかなかに楽曲クオリティが高い。
EuroBeat様式の基礎が垣間見える。
この年に世界を席巻したDXサウンドがベースや高音Seqに聞こえる。
リズムは「Relax」と共通のパターンが見受けられ、Euro様式の固定化が始まっている。
Legs – The Art of Noise(1986)
全編フェアライトによるサンプリングサウンド
これもトレバー・ホーン関連。
あの「超魔術」のテーマとして日本では有名になる。
トレヴァー・ホーンが立ち上げたZTTレコーズのサウンドエンジニアからなる正体不明のユニットとして結成された。
イントロからフェアライトサウンドが炸裂。
途中に入る人の声のようなスキャットサウンドは「VOX」というシンセ音色カテゴリーとして定番となる。
Music List vol.3-1
名前 | アーティスト | アルバム | 年 |
---|---|---|---|
Relax | フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド | Welcome to the Pleasuredome | 1983 |
Owner of a Lonely Heart | イエス | 90125 | 1983 |
You Spin Me Round (Like a Record) [Original 7″ Mix] | デッド・オア・アライヴ | Youthquake | 1984 |
Legs | アート・オブ・ノイズ | In Visible Silence | 1986 |
Venus | バナナラマ | True Confessions | 1986 |
Give Me Up | マイケル・フォーチュナティ | Give Me Up (Fortunati’s First) | 1987 |
I Should Be So Lucky | カイリー・ミノーグ | Kylie Minogue: Greatest Hits | 1987 |
Boom, Boom (Let’s Go Back to My Room) [Re-Recorded] | Paul Lekakis | New Wave Electro for Film & TV | 1987 |
I Heard a Rumour | バナナラマ | Wow! | 1988 |