6:1980年代後半とシカゴハウスとデトロイトテクノ
1980年代後半からの音楽変化
第4回で説明したEURO-BEATの時代は、ほとんどの楽曲が形式、サウンドカラー共に画一的に作られ、何を聴いても同じような楽曲に聞こえる風潮が良しとされていました。
これはポピュラリティが極めて集約されていたからこその状態です。
画一的音楽が求められていたことは、当時のメインリスナーが音楽のライトユーザーだったと推察されます。
EURO-BEATが完全に飽きられこの状態が行き詰まりを見せたのち、画一的だった音楽様式はそれまでと全く違った様相を呈しました。
それは「ジャンルの分化と複雑化」です。
ライトユーザー向けのコンテンツとは、わかりやすさが最優先されます。
その対極にある音楽コンテンツが求められてくるようになり、その誘導役となったのはミドル~ヘビーユーザーの音楽志向でした。
このコンテンツ変化のメインキーワードをあげるとすれば「知性」となるのではと考えます。
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シンセサイザー音色
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エフェクター使用法
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アンサンブル
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リズムアプローチ
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コードプログレッション
この全てが「多様化と複雑化」の方向にシフトします。
そして、分化されたジャンルはさらに「多様化と複雑化」の離反と集約により、多元的に発生を続け「ジャンルの過剰分化」を起こし続けます。
シカゴハウスとデトロイトテクノ
1980年代後半~1990年台初頭、最初に注目されたジャンルが「シカゴハウス」「デトロイトテクノ」です。
それまでのキラキラしたデジタル系画一サウンドのEURO-BEATから、完全に逆方向の要素で構成されたシカゴハウス/デトロイトテクノは、当時以降のサウンド変遷を予期させることを極めて困難にさせるものでした。
ハウス系の台頭とテクノの復活
ニューヨークディスコの影響を受けつつも、極めてユニークな様式の音楽がシカゴのクラブ「ウェアハウス」発祥にて生まれていきました。
それまでのEURO-BEAT系に見られる「明るくてポップ」「キラキラサウンド」「開放的パーティディスコチューン」から「暗くてディープ」「Lo-Fiファットなベースサウンド」「陰鬱系で内向的なクラブサウンド」へと時代の求める音が全く逆ベクトルへと変化します。
機材的には、本流ディスコ系の生オーケストラやセッションミュージシャンを使わずとも、当時全くのジャンク同然で超格安で出回っていたベースシーケンサーTB-303、デジタルリズムマシンTR707、デジタルアナログリズムマシンTR909、今のガジェットシンセ&シーケンサーの元祖MC-202やチープデジタルシンセサイザーの類を用いることで貧しい人たちでも制作可能な低予算かつ個人制作方式にてシカゴハウスは作られていきます。
特筆するべきはリズム隊のアプローチで、TR-707の余韻を削ぎ落としたソリッドサンプリングドラム、唯一無二なユニークドラムTR-909、アシッドサウンドの要TB-303などの、のちにテクノのコアとなるサウンドが作られていきました。
シカゴハウスの流れを受けて近傍の工業都市デトロイトにて、さらに内向的でディープなインストルメント中心なサウンドが錬成されていきます。
その中心人物「デリック・メイ」と「ホワン・アトキンソン」たちにより、自らの音楽を「テクノ」と呼称していたことから、EURO-BEAT時代には完全に死語扱いされていた「テクノ」が大復活を遂げ、現在へのエレクトロニックミュージックの新たな系譜を紡いでいくきっかけとなっていきます。
エレクトロニック・ミュージック第6回
名前 | アーティスト | アルバム | ジャンル | 年 |
---|---|---|---|---|
Promised Land | ジョー・スムース | Promised Land | Dance | 1989 |
Can You Feel it (Club Vocal) | Chez Damier | House | 1991 | |
Slam Dance | Mr.フィンガーズ | Mr. Fingers EP | Dance | 1987 |
Acid Attack | Mr.フィンガーズ | Mr. Fingers EP | Dance | 1987 |
Good Life | インナー・シティ | Paradise | Dance | 1989 |
Strings of Life | Rhythim Is Rhythim, May Day, DERRICK MAY & Mayday |
Strings of Life – Single | Techno | 1987 |
No UFO’s (Vocal) | Model 500 | No UFO’s – EP | Electronic | 1985 |